田中利典 川勝歯科医院 副院長

田中利典 川勝歯科医院 副院長 歯内療法専門医
コロンビア大学歯学部大学院 歯内療法専門医課程 2010年卒

−   先生が留学された時期は、歯科医師となって何年目でしたか?

  • 卒7年目でした。2001年に東北大学を卒業した後、東京医科歯科大学に専攻生として3年間補綴講座に所属しました。その後都内の歯内療法専門歯科医院(澤田デンタルオフィス)に勤務し、勤務医生活の傍ら留学のための勉強や準備を進めていきました。出願した時期は2007年、合格し留学生活が始まったのは2008年です。

−   どのような経緯で留学の道へと進まれたのですか?

  • 卒直後の専攻生生活では、欠損補綴を中心に学んでいました。そこで研鑽を積むうちに、「力のコントロール」とは別の「感染のコントロール」に対して、勉強する機会が自分の中で少なくなっているように思えてきたのです。そのため、後に勤務先となった歯科医院で週に一度見学させていただくようになり、また東京医科歯科大学歯周病科の勉強会にも参加するようになりました。
  • 様々な先生からご指導いただく中で気づきましたが、視野が広くすばらしい方だ、と思う先生はみなさん海外留学の経験をお持ちです。そのため、自分も留学したいな、という漠然とした気持ちが次第に大きくなっていきました。
  • その後勤務医生活になり、院長である澤田則宏先生に直接ご指導いただくうちに、専門医として活躍する将来像について思い描くようになりました。
  • これらの思いが重なり、それなら米国の専門医課程に入学するのはどうだろう、と考えるようになりました。ところが、2005年頃のことですが、各大学の出願条件であるTOEFLの必要スコアがどこも高くなったのです。そこで、やるなら本気で取り組まなくてはならない、とオフの時は英語漬けの毎日が始まりました。そのため出願条件のスコアが取れたときは、やっとスタートラインに立てたという思いでとても嬉しかったです。

 

−   留学先の大学や科を選ぶ上で考慮されたことはありますか?

  • 歯内療法を専門に学びたい、という気持ちが最初からありました。しかし、その専門医課程で留学経験のある先生は当時非常に少なかったため、最初は手探りでした。まず手にしたのが米国歯内療法学会の会員名簿です。
  • ここには各大学に在籍するレジデントの名前も載っています。名簿を見て、人種的な多様性があるか、各学年に何人いるか、米国外から出願する自分にとって入学するチャンスがあるか、などを考えながら、大学のカラーを読み取っていきました。
  • 最終的には東海岸の数校に絞り込み、締め切りの早い順に出願していきました。順に出すなかで、コロンビア大学から二次試験の連絡を最初にいただき、その二次試験の直後に最終合格通知をいただきました。結果的にその他保留としていた大学は取りやめ、留学先が決まったというわけです。

−   留学中の学生生活はいかがでしたか?

  • コロンビア大学の歯内療法専門医課程では、10の治療ユニットがあり、そのすべてにエックス線撮影装置と手術用顕微鏡が設置されています。1学年6人で計12人、ローテーションで治療ユニットが割り当てられ、自分が空きコマのときは研究を行います。
  • 他にも朝一番や昼の休憩時に講義が割り当てられ、論文抄読や症例発表、トピックを決めた学術発表も行います。実際の診療とともに、その根拠となる知識も同時に学んでいく日々でした。
  • コロンビア大学歯学部の全専門医課程に言えることですが、レジデントは人種、学歴、職歴、などで多様性に富んでいることが特徴です。歯内療法科の私の学年ではオリジンがみな違い、また米国以外の歯科大学を出て専門医課程に入学した者は私も含め3人いました。そのため、それぞれが国や民族の代表者のようで、ちょっとした空き時間のときは文化や歴史、宗教に話題が移ることも多々ありました。
  • 歯内療法について学んだことはもちろんですが、日本人として自国の文化や歴史、国際社会における日本について考えさせられた学生生活でもありました。

−   週末の過ごし方など、何かエピソードをお聞かせください。

  • 私の場合、留学期間中子供が生まれ家族が増えたのですが、年の近い子供がいるご家族とは、人種や年齢に関係なく、ホームパーティーやバーベキューなどで一緒に過ごす機会がたびたびありました。帰国後の今でも、まさに家族ぐるみでお付き合いが続いています。
  • また、コロンビア大学の学生はメトロポリタン美術館やMOMAなどマンハッタンの主要な美術館に学生証を提示するだけで入館できます。論文や研究の合間に頭のスイッチを切り替えるには絶好の場所なので、よく利用しました。特にメトロポリタン美術館は300万点を超える所蔵品があり常時入れ替えを行っているため、足を運ぶたびに初めて見る展示品に出会います。いつ行っても新鮮、という本当にすばらしい美術館です。
  • さらに、ブロードウェイや自由の女神、ロックフェラーセンターなどその他観光名所もたくさんあるため、友人や家族が来ても楽しみどころ満載です。
  • さすがに毎週末出かけるのは無理でしたが、マンハッタンという場所柄、国際交流や文化、歴史に触れる機会がいたるところにあるので、オフの時もとても充実した日々を送ることができました。

−   これから留学を志す若手歯科医師へ、メッセージをお願いします。

  • まずスタートラインに立つことを考えましょう。私がそうでしたが、希望や憧れから「いつか留学したい」という気持ちではなく、「留学するしかない」となったときが、本当の留学準備の始まりです。このときの志は、あなたの今後の歯科医師人生の芯になることは間違いありません。
  • このウェブサイトをご覧になられたということは、その準備の機が熟しているか、すでに具体的に行動されていることと思います。はっきりした目標があればそれを達成するために一つずつ前に進めばよいだけです。中途半端でなく、ぜひ全力で取り組んでいただきたいと思います。
  • その上で留学希望先の大学情報や実生活について詳しく知りたいことがあれば、私たち米国歯科大学院同窓会のセミナーにぜひご参加ください。様々な先生と直接交流し、大いに刺激を受けることができます。
  • あなたの留学、そしてその後の専門医としての道が開けることを切に願っています。