海外留学について

留学を目指す若き歯科医師、歯科学生へのメッセージ 二階堂雅彦

私は1994年から97年までの3年間、アメリカ、ボストンにあるタフツ大学歯学部(Tufts University School of Dental Medicine)歯周病学大学院(Postgraduate Program in Periodontology)に留学をする機会を得ました。
最近、留学を志す歯科学生や、若き歯科医師から問い合わせを受けることが多くなりました。
ここでは私の経験をもとに歯科医師の留学について触れてみます。
留学を目指す方々への一助になれば幸いです。

何を学べるのか?

全米には現在約50校の歯学部があり、通常4年制の学部(Undergraduate)と大学院(Postgraduate)に分かれ、各大学ごとにバライエティに富んだ教育が行われています。
ここでは私の留学した大学院に限って話を進めていきたいと思います。
周知のようにアメリカの歯科には専門医制がありますが、大学院教育のゴールはその分野の専門医として一本立ちすることで、そのゴールに向けて集中的に臨床のテクニックと、そのバックグラウンドとなる知識が与えられます。
現在アメリカ歯科医師会の認定する大学院プログラムには以下のようなものがあります。

 Periodontology (歯周病)
 Endodontics (歯内療法)
 Prosthodontics (補綴)
 Oral Maxillofacial Surgery (顎顔面口腔外科)
 Orthodontics (矯正)
 Pediatric Dentistry (小児歯科)
 General Dentistry (一般歯科)
 Oral Pathology (口腔病理)
 Public Health (公衆衛生)

すべての学校に以上のようなプログラムがあるとは限らず、修了年限も科、また大学により若干異なります。
私の行ったタフツ大学の歯周病のプログラムは3年間で、定員は一学年6人でした。
他にフェローシッププログラムと呼ばれる各大学独自のプログラムがあり、タフツ大学の場合には、Implantology(インプラント), Esthetic Dentistry(審美歯科), TMJ(顎関節)の3科が設けられていました。

入学をするためには何が必要か?

大学院の出願に必要なものは、各大学により若干異なりますが、以下のようなものが必要となります。

 願書 (経歴など)
 推薦状 (3−5通)
 Essay (志望の動機などをしたためたもの)
 歯学部の在学中成績証明書
 TOEFLのスコア (550以上)

詳しくは志望する大学に問い合わせてみましょう。
書類一式を送ってくれます。

教育の内容は?

大学院教育には三つの柱があります。
1つめはDidactic Courseと呼ばれるいわゆる座学で、解剖学、口腔病理学といったベーシックなものから、免疫学、細胞分子生物学といったものまで多岐にわたります。

2番目はDepartment Courseと呼ばれるその科に所属する学生のためのコースで、Literature Review(文献講読)とケースプレゼンテイションがその中心です。
Literatureは一週間に読む量が200−300ページにわたることもあり、さらにその内容をよく理解しておくことが参加するために求められます。
ケースプレではディスカッションの時間が非常に長くとられ、治療計画や実際の治療の理論的根拠に関する多くの質問に答えなければならないタフなものです。
英語にハンディキャップのある日本からの留学生はこの二つに特に悩まされます。

最後の柱はクリニックでこれは診療室で実際に患者さんを診ながらトレーニングを受けるもので、もっとも多くの時間がさかれます。
私の場合は3年間で百数十名の患者を担当し、バラエティに富んだ歯周外科、インプラント手術を行うことができました。
歯科医学の特色として科学だけでは割り切ることができないということがあります。
それゆえ“Science & Art”と呼ばれるわけですが、そのScienceの部分はLiteratureやDidactic Courseでみっちり鍛えられ、さらにArtの部分はクリニックでテクニックを叩き込まれるアメリカの大学院プログラムは非常にバランスの取れた教育がされているといえます。

どうやって出願校を探すのか?

Internetで探すのが一番よいでしょう。
歯周病科の場合ですとアメリカ歯周病学会のホームページ (http://www.perio.org /education/postdoctoral.html)で各大学院プログラムの詳細を見ることができます。
また拙著ですが「補綴臨床」1998年9月号、「特集卒後研修をアメリカの制度に学ぶ」、日本歯科評論1999年11月号「私の学んだアメリカの歯周病学」も参考になると思います。