石部 元朗 石部歯科医院 院長 補綴専門医
ワシントン大学歯学部大学院 補綴専門医課程 2009年卒
University of Washington Graduate Prosthodontics
われわれのプログラム、Graduate Prosthodontics(補綴大学院)は、メインキャンパスの南端に位置するヘルスサイエンスセンター内にある(図1、2)。本プログラムの内容は、3 年課程で主に臨床に従事し、全顎に関わる症例を中心に義歯、クラウンブリッジ、すべての補綴治療を行い、その補綴物の多くをみずから作製することは大きな特徴である。その他、講義に加えて、数多くの文献レビューやケースプレゼンテーションを通して、技術だけでなく幅広い専門知識や論じる能力を身につけていく。さらにこの課程で研究を行うとCertificate に加えてMSD(Master of Science in Dentistry)の学位が授与される。
また、初代ディレクターDr. RalphYuodelis により発足し、今日までに世界中で活躍する著名な歯科医師を輩出している。その中には、Dr. John Kois、Dr. Iñaki Gamborena、Dr.Stefano Gracis などがおり、また近年、頻繁に耳にするようになった「Interdisciplinary dentistry」の先駆けであるDr. Frank Spear、Dr. David Mathews、Dr.Vincent Kokich(図3)も本学の補綴、ペリオ、矯正の大学院出身者であり、日本での講演を聴講された方もいるだろう。
このように本学教員だけでなく、彼らのような開業歯科医として活躍している方々が講義、臨床などを通じて大学院教育に多大な貢献をしている。
世界各国から集う歯科医師とシアトルという街
私が留学を志した理由は、先輩の紹介で当時在籍していた後藤吉啓先生(ロサンゼルス開業)にお会いし、本プログラムを見学させていただく機会を得たからだ。さまざまな経歴をもつ世界各国出身の歯科医師が集まり、研究だけでなく臨床に携わっている光景がとても新鮮であり、都市と自然が調和したシアトルの街もたいへん美しく魅力的であった。
大学院合格までの道のり
次に、本大学院合格に至った経緯などを述べたい。
私は補綴学の専攻を希望していたため、各大学やアメリカの主な補綴学会の1 つであるACP(American College of Prosthodontists)のホームページで情報を集めた。また、留学を経験された先生方の意見や国内外の学会における講演者の経歴も参考にし、最終的に本学を含む3 校へ出願した。
本大学院は、北米以外の歯学部出身者が出願する場合、TOEFL およびGRE のスコア、出身校の成績証明、推薦状、各種質問事項への回答などが必要になる。それらの書類審査の後、最終候補者には大学において筆記および実技試験、面接が行われる。
出願にあたり、日本で仕事をしながら大学院合格を目指したが、当時の私の英語力ではその過程で相当な時間と労力を要した。とくにTOEFL およびGRE の試験(日本で受験可)は、大きな関門であった。そのため、必須とされるTOEFL のスコアを早期にクリアすることはその他の準備を進めるうえで鍵となる。
また、試験勉強と並行して興味のあったプログラムの担当者にE メールで出願要項の詳細を尋ねたり、時には見学の機会を得たりした。実際に現地を訪ねることでプログラムの実態や街の様子を知ることができ、同時に自分をアピールする良い機会となり、準備を進めるうえでの励みにもなった。
その結果、最終候補の9名に入り、その際の試験や面接では、日本での臨床経験や準備段階での困難を乗り越えた自信が後押しとなり、合格につながった(アメリカ2名、韓国1名、 筆者)。
これから海外留学を目指す人たちへ
アメリカの大学院には、さまざまな経歴の歯科医師がやってくる。もし将来、大学院への進学を考えているのであれば、日本で経験を積んでから出願するのも1つである。そうすることで日米双方の歯科事情が把握でき、また何を学び、追求したいのかが具体的になると思う。さらにその経験は、出願時のアピールにもなる。
私の場合、日本での口腔外科および歯科医院での経験、補綴に関してご指導いただいた先生方や歯科技工士の方々から学んだことが出願時のアピールとなっただけでなく、大学院で臨床を行ううえでたいへん役にたった。
留学当初は、言葉の壁や文化の違いにたいへん戸惑ったが、これまでの大学院やシアトルでの生活はとても貴重な経験となっている。海外留学はあくまで歯科医師人生の通過点にすぎないが、その人生に大きな影響を与えてくれると思う。日本出身の歯科医師が海外で学ぶことによって、日本の歯科界のさらなる発展につながることを期待し、私もその一助となることができれば幸いである。
(クインテッセンス出版株式会社発行の新聞クイント2009年8、9月号より許可を得て転載)